「境界線 - 赤城山」
いままで、さまざまな「境界線」を跨いで移動してきた。
それらは、はっきりと見えたり、よく見えなかったりする。
日本からアメリカ、車を運転して越えたメキシコ、
ジブラルタル海峡を挟んだユーラシア大陸とアフリカ大陸、
同じ大陸でも渡れなかった10km幅の国境があるフィンランドとロシア。
そしていま、その「線」は、今までにまして強固なものとなってしまった。
去年春先に計画していたインド・ラダック行きはキャンセルされ、
フィンランド東部カレリア地方でおこなっていたプロジェクトの再開は先が見えない。
それはおろか、東京やほかの町への移動も、そっと遠慮がちにしなければならなくなった。
群馬に来てから3年半。人とひとの間にある線こそが越えづらいものと感じてきたが、
物理的な線が確固たるものとしてまかり通ることになってしまった。
そんななか、何度か撮影に通っていた赤城の山頂に、
粕川の源流となる「三途川」という名の川があることを知った。
行ってみると、ところどころ干上がっていて、簡単に跨げてしまうくらいの小川だった。
その、光を含んだ水面や、干上がった地面、丸くなってごろごろしている石などをカメラ越しに見てまた、
川という線や、光の筋を見るたびに反対側を思う。
向こうに行ってしまった人たちはいま、どうしているのだろうか。