プロジェクト ロマ

1997年の12月、スペインの南部を一ヵ月かけて巡った。 この国に行ってみようと思ったのは自分のヒスパニック文化への昔からのつよい憧れがあったのが理由である。 その地で自分が遭遇したものは数千年もの歴史から生まれた様々な文化と民族の混合であった。 それは現在アメリカにあるものとはまた違ったものである。 スペインのそれはアメリカのものと比べると歴史の長さが格段に違う。 その長さの違いは混合さの複雑性や完成度の高さ、となって現われてくる。 文化の違いとはその国の歴史の長さによって現われてくるものである、と自分は思う。

スペイン滞在中に興味を惹き付けられた文化があった。 それはヒターノ(スペインのジプシー)のものである。 ジプシー(現在はロマという呼びかたが正しいので、以降そのように称する)とは、7世紀頃からインドからヨーロッパに移動してきた民族のことで、現在はヨーロッパ各地はもとより北米大陸にも多数の移住者がいる。 その文化はイスラムと中世ヨーロッパ、アフリカの文化が混合してできたものであった。 ヒターノとその文化を実際に現地で遭遇し、体験して、同情し、それらをもっと知りたくなり、そして写 真に撮りたいと思い始めた。

彼らに同情をよせた理由は自分自身のアメリカでの経験からきている。 自分は生まれ育った国、日本から長いあいだ離れて暮らしてきた。 この経験はいつのまにか自分は旅をし続けているのではないか、という錯覚に陥らせるようになった。 そしてその「旅」の最中では自分のアイデンティティ(自我)を探し続けるようになっている自分を発見したのである。 アメリカ合州国でのマイナリティの一員としての生活の中で、自分が直面 した差別の場面というのがある。 直接関係ないものを含めたら数えきれないほどになる。 これらは日本でずっと暮らしていたらまず経験しなかったであろうと思う

ロマたちの多くは母国というもの持たず、その長い歴史のなかで他の民族から迫害、そして差別 され続けてきた。 ロマたちを表現するときに「エクザイル - 国外流浪者」という言葉がよく使われる。 その同じ言葉を、日本人として、そして人間としての自我を探し求める自分にあてはめてみた。 このプロジェクトのサブジェクトはロマだけではない。 自分自身もがサブジェクトになっている。

1999年 秋


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